巻の参 古民家の各部位


参の一 石場建て工法

伝統構法の基礎は石場建て(いしばだて)と呼ばれる自然石の上に柱を建てる方法で作られる。

 

建物全体に盛り土をして周囲の地面より高くして建てられ、中には石垣を築いて周囲より1段高くし、その上に礎石を並べているものもある。礎石自体にもさまざまな形があるが、自然石を加工して柱が乗る面を平らにしその上に柱を立てる。自然石は表面に凹凸があるので柱の端部を自然石の形に合わせる光付け(ひかりつけ)と呼ばれる技術が使われる。建物の基礎に石を使う方法を礎石造り(そせき)造といい、自然石のことを礎石(そせき)という。

 

石場建て工法が使われる前は掘立柱建築(ほったてはしらけんちく)と呼ばれる地面に穴を掘りその下を突き詰めて柱を立てる方法が長く使われていたが、この方法は柱が地面から水を吸い上げすぐに腐ってしまうので、それを克服するために石の上に柱を立てる方式がとられるようになった。掘立柱建築に比べ、柱と地面の間に自然石を入れる石場建て工法は湿気による木の腐朽を防ぐ事ができ建物の寿命を伸ばすことが可能になった。

 

現在の在来工法ではコンクリートの基礎の立ち上りに土台を置き、アンカーボルトで緊結し、なおかつ柱との接合部に金物と筋交を取り付ける剛構造で耐震的な構造であるが、地震により力がかかった際に傾く角度(層間変位角)が建築基準法で定めている角度の1/120rad(ラジアン)を超える揺れが来た場合、金物の取り付け部が破損し、筋交が破損するなど倒壊の危険性を含んでいる。

 

しかし、伝統構法の建物は傾いて倒れかけてもしぶとく粘り、元に戻る復元力があり、尚かつ限界の数値は一般在来の木造住宅より高い。木の持つ本来の性質である粘りの柔構造がきっちりと効果を発揮する為に石の上に柱を建て、自由に動かせながら、柱間を継ぐ足固めと差鴨居や梁や桁の三重の横架材と柱間に通した貫が免震的な構造となっている。

 

まさに日本の風土に合わせた基礎が石場建て基礎である。

 


参の二 礎石の材質と形状

礎石に使用される石はJIS A5003で圧縮強度に基づき、規定が決められている硬石、準硬石を使用する必要があり。軟石は使用しないことが望ましい。最も適している石材としては花崗岩(かこうがん)、安山岩(あんざんがん)がある。

 

花崗岩とは、火成岩の一種で、流紋岩に対応する成分の深成岩(しんせいがん マグマがゆっくり冷えて固まったもの)石材としては御影石(みかげいし)とも呼ばれる。安山岩も火成岩の一種で深成岩の閃緑岩(せんりょくがん、深成岩のうち、主成分である無色鉱物が斜長石で、輝石、角閃石などの有色鉱物を約30%ものを指す)で、かつてひん岩と呼ばれていた岩石も含まれる。

 

1,石材の性質

 

吸水透湿性 石材は、水分を吸収する性質を持っており、地盤面の水分を吸い表面に染み出す場合がある。

 

強度 石材強度は圧縮、曲げ強度で表され、比重の大きな石材ほど圧縮強度は大きくなる傾向がある

 

摩耗性 

耐候性 石灰岩や砂石、疑灰石は花崗岩に比べ摩耗しやすく、耐候性も低い。

 

耐火性 花崗岩は石材の中では熱に最も弱く500度以上では急激に強度が低下するため火災にあつた建物の場合石材の種類を確認して場合によっては礎石を交換するなども必要となる。安山岩は火による劣化は少ない。

 

耐薬品性 石の種類により、耐薬品性に違いがあり、花崗岩はアルカリに対して強いが酸に弱い。

 

 

2,石材の欠点は、そり、亀裂、むら、くされ、欠け、へこみなどがJIS A5003で定められている。

 

そり 石材表面の曲がり、

亀裂 表面のひび割れ

むら 色調のふぞろい

くされ 石材中の簡単に削り取られる程度の異質部分

欠け 石材みえかかり部分の小さな破砕

へこみ 石材表面のくぼみ

 

欠点のある石材を使用する際には構造的に強度があるかを検討する。

 

3,形状

礎石として使用する石材は自然以外にも加工された角石、長石、板石などが使用され、石垣に用いられる間知石(けんちいし)などがある。

角石とは立方体状や台形状に加工されたものをいい、長石とは竿状の長さのある石(竿石は墓石の石を指すので竿石とは言わない)。板石は厚み60mm以上で幅が厚みの3倍以上のものを使用するようにする。

 

間知石とは6本ならべると1間(約180cm)になることから名付けられた短編が30cm前後の石垣や土留めに用いる表面は正方形~長方形であるが、背後に控え部分を持ち全体的に角錐型となっている。積み方によっては6角形の部材や野球のホームベースのような5角形の部材(矢羽)を上下端に使うこともある。

 

4,表面

石材の表面は自然石の場合「野ずら」と呼ばれる凹凸があるために木材部分を自然石の凹凸に合わせる「光付け」加工がなされる。加工された石材のばあいでも木部との摩擦が必要なので凹凸を残した「割り肌」か、びしゃんという工具を使い「びしゃんたたき」などと呼ばれる凹凸を残した加工がなされ、平滑には仕上げない。

 


参の三 三和土

三和土(三和土)とは古民家の土間の床に使われている地面の事。赤土・砂利などに消石灰とにがりを混ぜて練り、塗ってたたき固めた「敲き土」(たたきつち)の略で、3種類の材料を混ぜ合わせることから「三和土」と書く。敲き土とは花崗岩、安山岩などが風化して出来た土をいい、石灰と水を加えて練ると硬化する性質があり、コンクリートなどがなかった時代に地面を固める方法として使われ、明治時代にも既存の三和土を改良した人造石工法「長七たたき」などが用水路の開削工事などにも使われてきました。

 

三和土は地元の土を使用して作るのが一般的で、地域により色合いが変わる。

 

有名な産地としては、関東を流れる荒川で採れる「荒木田土」、

愛知県三河地方から採れる花崗岩が風化して粘土状になった「三州土」、

その他、長崎の天川土、京都深草の深草土などがある。

 

作り方は、砂利を含んだ赤土などの粘土に石灰と苦塩(にがり)を混ぜ、叩き棒や叩き鏝を使って硬くなるまで付きかたます。厚は10センチ位取る方がいいと思います。石灰は粘土の硬化を助け、にがりは冬に土間の凍結を防止する効果がある。配合に関しては土の成分により変わってくるので施工前にいくつかサンプルを作って検討する事が必要。

 

土間の三和土は通行の容易さなどから使われますが、古民家の場合床下の土も締め固められている場合が多い。土を締め固めた理由は、土の中の空気の層(隙間)を締め固める事により、地盤の凹凸や沈下の防止と、叩いた土間は防腐の効果も期待できるためでもある。

 

土の締め固めは土の含水比と密度に関係があり、床下の土を採取して、手で握り締めたあと、暫くして手を開くと、崩れずに土の塊が残る状態が最も土が締まった状態となり、その時の含水比を「最適含水比」という。

 

先人は、水分の多い地盤を突き棒などで、地盤を叩き締め、そうする事により余分な水分や空隙を取り除き、

固い地盤を作り上げた。いわゆる「ヨイトマケ」といわれる作業である。「ヨイトマケ」とは、建設機械が普及していなかった時代に、地固めをする際に、重量のある槌を数人掛かりで滑車で上下する時の掛け声であり、美輪明宏が自ら作詞作曲し、1966年ヒットした曲でその名が有名になった。「ヨイトマケ」の名称は、滑車の綱を引っ張るときの「ヨイっと巻け」のかけ声が語源とされる。