巻の七 建築基準法について…


七の一 建築基準法について

P435 家を建てる際に守らなければいけないのが建築基準法という法律です。大正8年に定められた市街地建築物法を前身に昭和25年5月24日に制定された建築基準法は、国民の生命、健康、財産の保護のため、建築物の敷地、設備、構造、用途についてその最低基準を定めた法律となり総括的規定と実態的規定とに分けて構成されています。

P436 単体規定とは、建築基準法第2章に定められており、日本国内の全ての地域に適用される個々の建築物及び建築物の定着している敷地が他の建築物や敷地に依存することなく単体で恒久的に安全、快適に維持でき機能しつづけていくために必要な最低限度の構造が規定されています。

集団規定は、
都市計画法の規定と連携し第3章や第4章で定められており、日本国内の都市計画区域を内外に定め、そのうちで建築基準法では都市計画区域内に建つ建築物を対象として定めています。都市計画区域内は日本国内の地域ごとに用途地域として利用目的を定めていて、建築物が健全な都市環境の一要素として機能するための規定がされています。

建築基準法の内容を更に噛み砕いて具体的に定めて行く、建築基準法施行令では、建築基準法の規定を受け規定を実現するための具体的な方法や方策を定め、建築基準法施行令の更に下には建築基準法施行規則があり、建築基準法と建築基準法施行令を実施する際に必要とされる設計図書や事務書式を定めています。

建築基準法関係告示は、監督官庁から公示され、複数分野の技術革新により日々変化していく事物へ追従するために建築基準法や建築基準法施行令、建築基準法施行規則などを補完する役割を担っています。

建設関連法令分野では通称として建築基準法は「法」、建築基準法施行令は「令」、建築基準法施行規則は「規則」、建築基準法関係告示は「告示」と略されています。

P443 住生活基本法(平成18年6月8日法律第61号)は「住宅建設五箇年計画」に変わり、2006年2月6日に閣議決定され、6月8日に公布・即日施行された。従来の新しい建物を「作っては壊す」のは環境への負荷を掛け、また住宅の平均寿命は英国75年、米国44年に対し、日本は30年と極端に短いなど問題点も多い。また、現状では新築住宅を購入するためには、勤続期間の大半をかけて返済するような長期間のローンを組まなければならないのが一般的だがこれを他の消費に回せるようになれば、国民生活がより充実したものになるだろうという狙いもある。しかし現状中古不動産に対して資産価値を保証するような統一基準がなく、またプロであっても建物の内部構造や過去に行われたメンテナンスの状況などは判断が難しいため、買い手にとっては購入のリスクが大きく、それが中古住宅市場の流通規模を縮小させる原因となっている。そこで「住生活基本法」に基づいて法整備を進め、国が住宅の長寿化と中古市場の活性化を促進することになった。

 

七の二 建築基準法の基礎


P445 計画的な都市づくりを進めるための法律として都市計画法というものがあり、まず都市計画の地域内か外か対象外の3つの地域に分類されどの地域かは役所の建築指導課などに確認できます。その中で建物を集中させて都市を形成する市街化区域とその周辺部で建物を建てるのを抑制する市街化調整区域、それ以外の地域が定めらます。

都市計画区域内
市街化調整区域
指定外の3つに分類されます。

P446 市街化区域内では、
建ぺい率
容積率
高さ制限(第一種・第二種低層住居専用地域)
前面道路幅員別容積率制限(道路幅員に乗ずる数値)
道路斜線制限
隣地斜線制限
日影規制などが定められ、この他に北側斜線制限が住居系の用途地域(第一種低層住居専用地域・第二種低層住居専用地域・第一種中高層住居専用地域・第二種中高層住居専用地域)には適用されます。

P450 不動産登記規則第百十三条では建物の種類は建築基準法とは少し異なり、建物の主たる用途により、
居宅(専ら居住の用に供せられる。別荘も居宅)、

店舗商品を陳列して販売するための建物の他、美容院、レストラン、飲食店、バー等も含まれる)、

寄宿舎(社員寮や学生寮のように多数の者が居住し、食堂・浴場を共用している建物)、

共同住宅(一棟の建物内に独立の居住単位の区画があるもの)、

事務所(官公署、会社、団体等の事業活動のための事務を執るための建物)、

旅館(旅館、ホテル、ユースホステル、ペンション等)、

料理店(料亭、割烹等)、

工場(物品の製造、加工等を行うための比較的規模の大きい建物)、

倉庫(物品の収納、保管の用に供する建物)、車庫、発電所、変電所などと区分されます。

P451 建物が密集している都市では火災発生時の燐家への延焼が被害を大きくしますので、それを防ぐために建築基準法では防火指定地域を設け、万一火災が発生しても被害を最小限に食い止めるように措置を講じる必要があります。

防火地域
防火地域は建築基準法第61条で規定されていて、防火地域内の建物は原則として耐火建築物で有る事が求められます。

法22条指定地域
法22条指定地域の建物の屋根は準不燃性能、外壁で延焼の恐れのある部分は準防火性能のある構造とする規制があります。

大規模木造建築物の防火
延べ面積が1,000m2を越える大規模木造建築物については、外壁や軒裏で延焼の恐れのある部分を防火構造とし、屋根を準不燃性能のある構造とする他、防火壁によって床面積1,000m2ごとに区画するなどの規制があります。

P453 都市計画区域内は住居地域、商業地域などさらに12の地域に細かく分類され、地域によって建てられる建物の大きさや、防火などの指定が行われています。12の地域に関してはP453に一覧表を掲載しています。

P455 北側斜線制限は低層住居専用地域・中高層住居専用地域などの住居系地域に制限を加えます。詳細はP455に掲載しています。

P456 道路斜線制限は都市計画区域内で道路面の日照の確保をする為に建物の高さを前面道路の反対側の境界線を起点として一定の勾配の斜線の範囲内に納める必要があります。勾配の数値は2種類有り、住居系地域とそれ以外で異なります。

P456 隣地斜線制限は都市計画区域内で、第1種・第2種低層住居専用地域を除くすべての区域に隣地の日照及び通風などの環境確保のため設けられます。建物の高さを隣地境界線から一定以上の高さを起点とする斜線の範囲内に収める必要が有り、起点となる高さは住居系地域で20m、それ以外の地域は31mとされ、それぞれ斜線の勾配も異なります。また、壁面を隣地境界線から後退させるとその距離に応じて斜線制限が緩和されるなどの措置もあります。

P457 住宅を建てるためには前の道路が4m以上幅がある道路(みなし道路、位置指定道路)に敷地が2m以上接しているかどうかが最低条件となります。これは建築基準法の中で「接道義務」として定められています。

P458 建蔽率とは難しく書くと、建築面積の敷地面積に対する割合になります。

建ぺい率=建築面積/敷地面積(×100%)

P459 容積率とは建物の延べ面積の敷地面積に対する割合の事で、要は2階建ての建物の場合には1階と2階合わせた床面積が敷地面積に対して何パーセントになるかを計算します。 

容積率=延べ床面積/敷地面積(×100)

七の三 建築基準法の改正の歴史


P460 建築基準法は昭和25年の制定後幾度も改正を加えられています。度重なる大きな地震の被害を受けより安全な建物となるように耐震についての基準の強化や社会問題化したシックハウス症候群への対応や、2005年の耐震偽装問題に単を発して見直しが行われ迷走をした建物の許可に関する手続きの改訂や一番新しい所では住宅の瑕疵担保責任に関してなどです。木造住宅で言えば昭和56年の新耐震基準が耐震に関してのひとつの分岐点です。

1980年(昭和55年)省エネルギー基準 制定
1981年(昭和56年)新耐震設計基準制定地震に対する基準の向上
1992年(平成4年)新省エネルギー基準 制定
1999年(平成11年)次世代省エネルギー基準 制定
2000年(平成12年)住宅の品質確保の促進等に関する法律
          建築基準法改正
2003年(平成15年)シックハウス対策 施行
2007年(平成19年)改正建築基準法
2009年(平成21年)住宅瑕疵担保履行法

P462 新耐震基準は、地震による建物の倒壊を防ぐだけではなく、建物内の人間の安全を確保することに主眼がおかれ旧基準の震度5程度の地震に耐えうる住宅との規定は、新耐震基準では震度6強以上の地震で倒れない住宅と変わりました。

旧耐震基準の建物は中規模の地震に耐えるように設計されていましたが、大地震に対するチェックはなされていません。一方新耐震基準以降の建物は、中規模地震に対して損傷しないことに加えて、大地震に対して倒壊しないことや、平面と立面的にバランスよく設計することなどが要求されています。

耐震基準を大まかに言えば、新耐震基準では建物が支える重さの20%以上に相当する水平力を受けても「壊れない」ように決められています。この水平力は、中程度の地震に相当するものです。また大地震については、建物が支える重さの100%以上に相当する水平力を受けても「倒れない」ように決められています。新耐震建物と旧耐震建物の差は被害程度と被害確率の差になります。阪神・淡路大震災の被害状況を分析すると、旧耐震の建物は30%弱が大破以上の被害を受けたことに対し、新耐震の建物は数%にとどまっていました。

P465に地震と建築基準法の改正の歴史を一覧でまとめています。

またP467に震度6と震度7による建物被害の違いに付いても表に示しています。

P470 シックハウスとは、新築の住居などで起こる倦怠感やめまい、頭痛などが発生する体調不良の事で、ハウスシック症候群と呼ばれ、海外ではシックビルディング症候群と呼ばれています。日本ではオフィスなどの住居以外で起こる症状をシックビルディング症候群、住居で発生する症状をシックハウス症候群と言い、最近では新車などの自動車でも同様の症状が現れシックカー症候群などと呼ばれています。

発生の原因は住宅内の空気が汚染され、それを吸引する事で発症するのですが、似たような症状の化学物質過敏症と混同されますが、シックハウス症候群は住宅に由来する健康被害の総称であり両者は異なる概念です。空気汚染の原因としては家屋や家具に使われている接着剤や塗料に含まれるホルムアルデヒドなどの有機溶剤や、建物をシロアリなどから守る為に防腐剤などに使われている揮発性有機化合物(VOCV)などと共にカビやダニなどのハウスダストも原因となります。

P470 厚生労働省はシックハウス(室内空気汚染)に関する調査を行い13種類の揮発性有機化合物において13種の物質に対し指針を出しています。その物質とは、

ホルムアルデヒド
毒性の強い有機化合物で水に溶かしたものはホルマリンと呼ばれ防腐処理に使われる。住宅にはフェノール樹脂や尿素樹脂として使用され接着剤、塗料、防腐剤に含まれて入ってくる。現在は建築基準法によりホルムアルデヒドを放散する建材は使用が制限されており放散量によりF☆から少ないもののF☆☆☆☆とランク分けされています。

アセトアルデヒド
一般的に二日酔いの原因物質だが、自動車の廃棄やタバコの煙、合板の接着材に含まれる独特の臭いと刺激性をもつ物質で発がん性が指摘されています。

トルエン
トルエンはペンキやシンナーなどの塗料で使われる溶剤やゴム、接着剤、マニュキュアや皮をなめす薬剤などに含まれており、さまざまなものを溶解できる。人体に入った場合には脳障害などを負わせ吸引だけでなく、地下水や土壌の汚染などからの経口や経皮でも体内に入る可能性があります。

その他
キシレン
エチルベンゼン
スチレン
パラジクロロベンゼン
クロルピリホス
テトラデカン
フェノブカルブ
ダイアジノン
フタル酸ジ-n-ブチル
フタル酸ジ-2-エチルヘキシルです。

 

七の四 資格者のおこなう業務


P472 古民家鑑定士、伝統資財施工士は、それぞれの資格に基づいて築50年以上経った伝統構法の木造住宅と、これから対象に含まれてくる昭和25年から昭和56年の間に建築された在来構法で築50年以上経った住宅と、これから建築する新しい木造住宅に必要とされる知識を習得する必要があります。

 

古民家鑑定士は3年ごとに更新が必要な資格ですが、その役割は、

伝統構法で建てられた築50年以上の伝統構法の建物並びに昭和25年から現在までで築50年以上経った古い耐震基準などで建てられた在来構法の現状のコンディションを調査して古民家鑑定書を発行します。

 

築年数に関わらず伝統資財と呼ばれる持続可能な循環型資材をもちいて改修の為の提案と施工を担うと共に、建築士などの資格をお持ちの方は更に早稲田式動的耐震診断士などの資格を取得して伝統構法の耐震について提案と改修をおこなうのが「伝統資財施工士」の役割となります。

 

P474に資格者の扱う築年数や業務内容の一覧を表にしていますので確認下さい。

 

P474 古民家鑑定士の業務とは

 

古民家鑑定士はその名称において下記の業務をおこない、ユーザーへ古民家の再活用の提案をおこなっていかなくてはならない。

 

1、残すべく築50年以上の伝統構法の古民家並びに在来構法の木造住宅を実際に鑑定し、耐久性や希少性、文化的な住環境の保存などの総合的な判断基準に基づき古民家鑑定書を発行し、このような築50年以上経った古民家に対して新たな価値の創造をおこない、ユーザーに提案していくことを業とする。

 

2、築50年以上の木造住宅の移築や再生事業で再活用可能な住文化をユーザーへ提案すると共に、築50年以上木造住宅の流通経路を構築し、適正価格での古民家や伝統資財の流通のシステムを伝統資財施工士と協力し構築していくことを業とする。

 

3、古民家が長期耐用住宅であることをユーザーへ伝え、可能な限り残していけるように社会的認知の促進を図り、合わせて伝統資財を活用した住宅、店舗の設計、施工などの提案をおこなっていく事を業とします。

 

古民家鑑定士は試験を受け、古民家鑑定士の試験は古民家に対しての考え方や鑑定の仕方などについて出題される総論、伝統構法についての出題がされる伝統、そして在来構法について出題される在来の各問題があり、その試験範囲の合否において一級と、二級(伝統)、二級(在来)の資格に分かれます。

 

P476 伝統資財施工士の業務とは、

 

伝統資財施工士はその名称において

 

1、古民家鑑定士が調査して発行した古民家鑑定書をもとに、その住宅の維

持保存のために構造的な見地や耐久性、文化的、社会的公共性からアドバイスや設計や施工をおこなうことを業とする。

 

2、伝統資財を産業廃棄物として処分するのではなく、可能な限り再活用できるように専門的な知識を持ってユーザーにその利用方法を提案し、伝統資財を活用した住宅、店舗などの設計、施工をおこなっていく事を業とする。

 

3、日本の住宅の耐用年数が欧米などに比べて短い事に鑑み、これから建築する住宅においても伝統資財となりうる建築資材を活用し、伝統資財が長期住宅に活用可能な資材であることの社会的認知の促進活動などを古民家鑑定士との協力の下におこなっていく。

 

4、木造住宅が長期耐用住宅であることをユーザーへ伝え、可能な限り残していけるように社会的認知の促進を図り、合わせて持続可能な伝統資財を活用した新しい住宅の設計、施工などの提案もおこなう。

 

また伝統資財施工士で建築士の資格もあれば、

グリーン建築推進協議会が認定するグリーン建築の家の調査、認定をおこなったり、早稲田式動的耐震診断士として伝統構法の耐震診断をおこなうなど様々な派生する資格などを取得して業務の幅を広げて行く事も可能となります。

 

七の五 登録有形文化財制度について


P477 古民家は築50年を経過した建物と定義をさせて頂いていますが、その基になったのは登録有形文化財制度です。

 

登録有形文化財は1996年に改正された文化財保護法に基づいて、文化財登録原簿に登録された有形文化財の事です。登録の対象は当初は建造物に限られていましたが、2004年の改正で建造物以外の有形文化財も対象となりました。主な登録建造物は江戸時代のものから明治以降に建造された建造物約7800件が全国にあり、東京大学の安田講堂や大阪にある日本基督教団大阪教会や愛媛の松山地方気象台など、石やレンガ造りのものが多いが、中には高知県にある畠中家住宅(野良時計)などの古民家なども登録されています。

 

登録有形文化財登録の基準は、建築物、土木構造物及びその他の工作物(重要文化財及び文化財保護法第182条第2項に規定する指定を地方公共団体が行っているものを除く。)のうち、原則として建設後50年を経過し、かつ、次の各号の一に該当するもの

 

1、国土の歴史的景観に寄与しているもの

2、造形の規範となっているもの

3、再現することが容易でないものとされています。原則として建設後50年を経過したものが登録の対象となるので古民家の定義も50年以上とさせて頂きました。