八の十二 構造躯体調査項目について


P537 構造は適切に施工され、雨漏りやシロアリの加害が無ければ長持ちする部分です。ただ伝統構法の建物に後から在来構法で増築されていたり、不同沈下などで無理な力が長年加えられていたりすると地震などの災害の際に非常に危険です。構造材の木材の状態(雨漏り、腐朽、シロアリ)、不同沈下などによる傾き、間取りや耐力のバランスの3つのポイントを調査します。


シロアリの被害が有る。シロアリは新築住宅の場合の保証期間は現在5年間である。古民家などの場合、床下などが乾燥しており風通しがよければシロアリの加害を受けないが、それでも水回りなどは加害されている事が多い。シロアリは駆除よりも予防が大切で、今大丈夫だとしても将来に渡って安全とは言えないので5年に一度程度の点検を行っていくのが大切である。


雨漏りがある。雨漏り箇所としては屋根や外壁、床下など外部に面している部分であれば経年変化により雨漏りの可能性がある。屋根などの場合昔の土をのせた屋根なら瓦土が長年の雨で流れ出してそこから雨漏りしたり、瓦が割れたりズレたり、下地板の変形などでも雨漏りが発生する。外壁は柱と壁の接している部分の隙間や窓回りなど異なる素材の接する部分に隙間が生じる事や、クラックなどから雨漏りを起こす。床下は雨漏りというよりは雨の流入や給水管や配水管の破損などが原因となる。屋根の雨漏りなどは小屋裏の梁などを水が伝わる為に雨漏り箇所の直下に水が落ちてくるとは限らず、雨漏り箇所の特定が難しかったりする。雨漏り箇所を探すには晴れの日に水を区画ごとに散布して水が落ちてくるかを見る。天井や木材のシミや黒ずみ、材料の浮きや剥がれなどが雨漏り跡の痕跡となる。


P538 小屋組に著しいひび割れやたわみがある。小屋裏は床下と異なり確認しにくい部位で、高所のため安全に充分配慮をして、危険な場合には内部に入らずに、点検口からフラッシュで写真を撮影する程度で調査を諦める判断も必要である。調査する場合には押し入れなどに点検口が付けられている場合が多いので所有者にその場所を確認する。天井裏は長年のホコリが溜まっているので汚れても良い服装に着替えるとともに、天井板や天井板を支えている吊り木は人の重さを支えれないので体重を掛けないように注意をし、桁や梁などの大きな部材の上を移動するか足場板のような長い板を渡しその上を移動する。また電線などもあるので感電などにも注意が必要です。


P539 小屋組は京呂組で組まれている。小屋組は折置組で組まれている。折置組は、柱の頂部に直接小屋梁を架け、その上に軒桁を架ける方法で柱の重ねホゾで柱と桁を貫きの3材を固定する。古くから使われてきたが今日では用いられることは少ない。軒桁は荷重を負わず柱の頂上を連結するだけの目的であり、細くても丸太でもよい。小屋梁の下には必ず柱か束がくる構造で伝統構法に多い。京呂組は柱の上に桁を載せ、この桁の上に渡りあごまたは蟻掛けで小屋梁を架け渡す方法。最近はこの組み方で建てられることが多いく、太い角材の軒桁を使う場合には必ずしも梁の下に柱が無くても骨組みができる。間取りに自由度が増し、小梁間の住宅に最適。小屋梁の小口が外から見えにくい。在来構法の多くはこの京呂組が用いられている。


P540 柱などに著しいひび割れがある。柱の長て方向(繊維方向)にひびが入るのは乾燥による収縮のため余り気にする必要はありません。真壁の和室などの場合には壁が来る部分に始めからヒビを入れ他の部分にひびが入らないように加工したりします(背割り)。しかし繊維と直角方向(柱の表面に地面と水平方向)のひび割れなどは加重が掛り支えれなくなった為のひび割れなので危険です。また繊維方向だからといってもひび割れにより部材の一部が欠損してしまっているものなども危険ですので注意が必要です。


P541 柱や梁を叩いてみて空洞音がする。金槌などの場合には木材表面を痛めてしまいますので木槌やプラステックハンマーなどを使い「トントントン」と動かしながら軽く叩いて行きます。
柱に劣化や欠損などが見られる。欠損については、昔使われていたほぞ穴などですが、欠損部分の大きさがどの程度なら補強を施したほうがいいのかの一つの目安としては、建築基準法施行例令第43条第4項に柱の欠損部分が柱の小径に基づき算定した所要断面積の3分の1以上有る場合には補強が必要とされています。補強の方法としては埋め木が一般的です。


P542 建物外壁に6/1000以上の傾きがある。在来構法の場合は傾きの安全値が6/1000以内とされています。柱の床から1mぐらいの高さからおもりのついた糸などを垂らし、床付近で6mm以上違いがあれば記録します。木材の特性で曲がっている場合もあるので何カ所かの柱を調査してください。また平面図にそれぞれの傾きを記録する事で建物がどういう風に傾いている(ねじれている)かを知る事もできます。伝統構法の場合には在来構法の倍の12/1000までが安全とされています。


P543 建物の平面は長方形に近い平面である。建物の平面はどちらかというとL字型やT字型になっている。建物の平面は複雑な平面形状である。


地震の際に建物がどのような動きをするかを考えると地震力は建物の中心である重心(建物の平面形状の中心)に作用し剛心(水平力に対抗する力の中心)回りに水平方向に回転しようとします。ですから重心と剛心の距離が近い方が変形しにくいと言えます。建物平面がL時型などの変形より長方形などのほうが一般的には重心と剛心の距離は近くなります。(耐力壁の配置バランスよっても影響を受けます)重心と剛心のへだたりのねじり抵抗に対する割合を偏心率といい、木造住宅の場合には2000年(平成12年)の建築基準法改正で偏心率は0.3以下であるように規定されています。

 

P544 2階外壁の直下に1階の内壁または外壁がある(間崩れが無い)。2階の外壁の直下に1階の内壁または外壁が無い所がある(間崩れがある)。間崩れとは1階の柱の直上に2階の柱が乗っていない事で、間崩れのある家は、材料に半端が出るだけでなく、場所によっては材料を継ぎ足して使う場合もでてきます。構造的に計算上では問題がない範囲だとしても、やはり継ぎ足しの無い一本の材料よりはどうしても強度がおちてしまいます。部材を有効に使う間崩れのない家は、丈夫な家ともいえます。 


P547 増改築の履歴がある。増改築を行っている場合には構法の確認や今後の計画立案などにおいて当時の図面があるかが重要ですから所有者に確認して残っている場合にはコピーを取るか、デジカメなどで図面を撮影しておきます。